不動産の売却に伴う税金の計算はとても複雑で、多くの人が頭を悩ませています。本記事では、不動産の売却時にかかる税金の種類と計算方法、納税スケジュールまでを詳しく解説します。
記事を読んで、不動産取引をスムーズに進め、余計な出費を抑えましょう。
不動産売却時にかかる税金とは
売却の手続きにかかる税金と、売却の利益にかかる税金について詳しく解説します。
売却の手続きにかかる税金
不動産の売却手続きには、下記の税金がかかります。
- 印紙税:売買契約書に印紙を貼付する際に発生する
- 登録免許税:不動産の所有権移転登記を行う際に発生する
- 不動産取得税:売主には直接関係なく購入者が支払う
不動産取引をスムーズに進めるためにも、売却前に計画を立て、必要な税金を把握しておきましょう。
売却の利益にかかる税金
不動産の売却で発生した利益は、譲渡所得として所得税と住民税の課税対象となります。譲渡所得の計算では、不動産を所有していた期間によって異なる税率が適用されます。所有期間ごとの税率は下記のとおりです。
- 所有期間が5年以下:短期譲渡所得となり39%の税率が適用される
- 所有期間が5年超:長期譲渡所得となり20%の税率が適用される
住宅ローンの残債など、特定の条件下では税負担の軽減も可能です。
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不動産の譲渡所得税の計算方法
不動産の譲渡所得税の計算方法について、下記のとおり解説します。
- 譲渡所得の算出方法
- 短期譲渡所得と長期譲渡所得の違い
- 譲渡所得税の計算式
譲渡所得の算出方法
譲渡所得は、売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いた金額で算出されます。売却価格と所得費、譲渡費用の詳細は下記のとおりです。
- 売却価格:不動産を売った際の実際の金額
- 取得費:購入時の価格や購入にかかった諸費用、増改築費用など
- 譲渡費用:売却時にかかる仲介手数料や広告料、登記費用など
課税金額に所有期間ごとの税率を掛けて、譲渡取得税を算出します。
短期譲渡所得と長期譲渡所得の違い
短期譲渡所得とは、所有期間5年以下の不動産の売却利益です。短期譲渡所得の税率は最大で39%に達することもあり、比較的高い税金がかかります。長期譲渡所得は、所有期間5年超の不動産の売却利益のことです。長期譲渡所得には軽減税率が適用されます。税率は最大で20%で、税負担を大幅に軽減できます。
投資戦略や不動産の売却時期を検討する上で、所有期間による税率の違いは重要です。効率的な資産管理の一環として、長期保有による軽減税率を積極的に活用しましょう。
譲渡所得税の計算式
譲渡所得税は、譲渡所得×税率で算出されます。譲渡所得の算出方法と適用される税率は下記のとおりです。
- 譲渡所得:売却価格-(取得費+譲渡費用)
- 短期譲渡所得の税率:5年以下の所有で最大55%
- 長期譲渡所得の税率:5年超の所有で最大20%
上記に加えて、特定の条件を満たす場合は特別控除が適用され、さらに譲渡所得が軽減されます。
不動産売却税の納税スケジュール
不動産売却にかかる税の納税スケジュールについて、下記を解説します。
- 納付タイミング
- 納付方法
- 確定申告の流れ
納付タイミング
不動産売却による譲渡所得税の納付タイミングは、売却利益が確定した後の確定申告です。確定申告は、売却利益が確定した年の翌年2月16日〜3月15日の間に済ませなければなりません。税務署から納税通知書が届くので、指定された期間内に納付しましょう。
トラブルによる未払いを避けるためにも、納税通知書が届くまでに、必要なお金を準備しておくのがおすすめです。
納付方法
不動産売却による譲渡所得の納税方法には、2つの方法があります。納税地の管轄税務署で直接支払う方法と、銀行や郵便局から振り込みで支払う方法です。どちらの場合も、指定された期限内に納税を済ませましょう。
確定申告の流れ
不動産売却による譲渡所得税は確定申告を通じて納付します。確定申告の流れは、下記のとおりです。
- 確定申告書の作成
- 必要書類の収集(収入証明、売却資料、経費領収書など)
- 書類の提出(郵送または電子)
- 税務署から受領確認の通知が届く
- 税金の納付
不動産売却で活用できる税金の特例
不動産の売却にはいくつかの特例が用意されており、有効に活用すれば税負担の大幅な軽減が可能です。不動産売却で活用できる税金の特例について、下記を解説します。
- 住宅用財産の3,000万円特別控除
- 長期所有物件への軽減税率
- 特定居住用財産の買い替え特例
売却を検討する場合には不動産売却一括査定が便利です。複数の不動産会社が出した査定額を比較することで、損をしない売却を進めることができます。
住宅用財産の3,000万円特別控除
自宅と敷地を売却する際に、利用できるのが住宅用財産の3,000万円特別控除です。控除を利用するには、下記の条件を満たす必要があります。
- 売却の時点で5年以上住んでいる
- 売却年の翌年1月31日前に確定申告する
住宅ローンが残っている場合でも制度は利用可能です。控除後に3,000万円を超える部分については、通常の税率が適用されます。
長期所有物件への軽減税率
不動産を長期間所有していた場合、軽減税率の特例を利用できます。売却した不動産の所有期間が5年超の場合に利用可能です。所有期間が10年を超える場合はさらに低い税率が適用され、税負担を大幅に軽減できます。適用を受けるためには、事前の申告が必要で、特定の条件を満たす必要があります。
正確な申告が求められるので、専門家への依頼がおすすめです。
特定居住用財産の買い替え特例
特定居住用財産の買い替え特例は、自宅を売却し、新しい居住用不動産を購入する際に活用できる制度です。売却益への税金の支払いが繰り延べられ、支払い時期を延ばせます。特例を適用するには下記の条件を満たす必要があります。
- 新しい居住用不動産の価格が売却した自宅の価格よりも高い
- 売却から3年以内に新しい居住用不動産を購入する
- 売却から6ヶ月以内に新しい居住用不動産の購入契約を結ぶ
特例の適用には、必要書類の収集や確定申告が必要です。特定居住用財産の買い替え特例を活用すれば、税負担を大幅に軽減しながら、住宅を買い替えられます。
不動産売却に伴うその他の費用
不動産売却の際には、税金以外にも必要な費用があります。予想外の出費を防ぎ、取引をスムーズに進めるためにも、事前に把握しておきましょう。不動産売却に必要な費用は下記のとおりです。
- 仲介手数料
- 登記費用
- 引っ越し費用
仲介手数料
仲介手数料は、不動産売却の際に仲介業務をしてくれた不動産会社に支払うお金です。仲介手数料は、売却代金が確定したときに発生し、消費税がかかります。日本では、仲介手数料の上限が法律で定められており、売却価格に応じた値段で算出されます。不動産売買における売却価格ごとの仲介手数料の上限は、下記のとおりです。
- 400万円以下:売買価格の5%以内
- 400万超2000万円以下:売買価格の4%以内
- 2000万円超:売買価格の3%以内
実際の仲介手数料は不動産会社によって異なるので注意が必要です。交渉により額が変動することもあります。
» 不動産仲介の基礎知識|業務内容と選び方
登記費用
不動産の名義を変更する際に、登記費用が発生します。登記費用は、不動産取引の法的な補償や権利証明に不可欠な費用です。物件の価格や地域によって変動があり、数万〜数十万円程度かかるのが一般的です。住宅ローンを利用するのであれば、抵当権設定の登記費用もかかります。
登記の手続きには専門的な知識が必要なため、司法書士に依頼するのが一般的です。登記費用には、司法書士への報酬も含まれます。
» 相続登記の費用の基礎知識と安く抑える方法
引っ越し関係の費用
不動産の売却に伴い引っ越すのであれば、下記のような引っ越し関係の費用がかかります。
- 引っ越し業者の費用
- 引っ越し時の保険料
- 不用品の処分費用
- 住所変更に伴う各種手続きの手数料
- 電気・ガス・水道など新居の初期設定費用
- 仮住まいの費用
引っ越し関係の費用の中でも大きな割合を占めるのが、引っ越し業者の費用です。引っ越し業者の費用は、基本料金や距離や荷物の量、大型家具や大型家電の有無で大きく変動します。予想外の出費を招かないためにも、引っ越しにかかる費用を事前に確認しておきましょう。
» 不動産の売却手数料の種類と抑える方法
不動産売却と相続税の関係
相続した不動産を売却する場合、相続税と譲渡所得税の両方が発生します。不要な出費を避け、適切に税金を支払うためにも、正しい不動産の取り扱いと税金の算出方法が把握が必要です。
相続した不動産の売却と税金
相続した不動産を売却する場合、通常の不動産売却と同様に譲渡所得税が発生します。譲渡所得税は、売却で得た利益に対して課されるものです。売却益から、取得費や売却に必要な経費を差し引いた金額を元に算出します。取得費には相続時の不動産価格が適用されます。
売却に必要な経費として計上できるのは、仲介手数料や登記費用などです。相続から3年以内に不動産を売却する場合、特別な控除が適用されることがあります。所有期間によって適用される税率は大きく異なるので、税負担を軽減するためにも、計算方法を正しく理解しておきましょう。
相続税と譲渡所得税の計算
相続税は、課税金額に10〜55%の税率を掛けて算出します。課税価格は、相続財産の総額から基礎控除の3,000万円と相続人の数×600万円を差し引いた金額です。相続税は累進課税となっていて、財産が多いほど高い税率が適用されます。
譲渡所得税は、不動産の売却価格から購入時の費用や売却に必要な経費を差し引いて算出されます。不動産の所有期間ごとの税率は下記のとおりです。
- 5年以下の短期所有:39%
- 5年超の長期所有:20%
不動産売却の税金対策で注意するポイント
不動産売却では、適切な対策をしないと税金の負担が増える場合があります。不動産売却の税金対策で注意するポイントとして、下記の項目を解説します。
- 併用できない税金控除がある
- 税務署への申告を適切に行う
併用できない税金控除がある
不動産の売却では、併用できない税金控除があるので注意が必要です。住宅ローン控除を利用している場合、同じ物件に対して住宅取得等資金の贈与の特例は利用できません。配偶者控除と配偶者特別控除についても、どちらか一方を選択しなければいけません。
不動産を売却したときは、売却した物件に関する住宅ローン控除も受けられなくなることも覚えておきましょう。特定の控除を利用する際は、他の控除も併用できるのか事前に確認しておくことが重要です。利用する控除を適切に選択すると、税金の負担を効果的に軽減できます。
税務署への申告を適切に行う
期限内に税務署への確定申告が完了しなかった場合、ペナルティを課される可能性があります。不動産の売却益が出た場合、利益に対して所得税と住民税の申告が必要です。申告に必要な書類としては、下記のものがあります。
- 売買契約書
- 取得費証明書
- 譲渡費用の領収書
不動産の取得費や改良費も正確に計算し、経費として計上しましょう。適切な申告と税金の負担軽減のためには、事前の準備が重要です。住宅ローンの残高があれば、不動産の売却時に税金の特例が適用される可能性があります。利用できる控除や特例を事前に確認しておきましょう。
不動産売却の税金に関するよくある質問
不動産売却の税金に関するよくある質問は下記のとおりです。
- 土地と建物で税金は違う?
- 不動産売却の税金を抑える方法は?
- 不動産売却で非課税となるケースはある?
- 売却損が出た場合の税金は?
土地と建物で税金は違う?
土地と建物の売却における税金は異なり、計算方法にも違いがあるので注意しましょう。土地の売却益に課されるのが、土地譲渡所得税です。土地譲渡所得税は、売却益に購入費用や譲渡費用を加味して計算されます。建物の売却益に課されるのが、建物譲渡所得税です。
建物譲渡所得税は、減価償却により変動するコストベースを元に算出されます。土地と建物を同時に売却する際は、土地と建物の税金を分けて計算しなければなりません。
不動産売却の税金を抑える方法は?
優遇税制の活用や経理上の工夫で、不動産売却の税金を抑えられます。税金を抑える具体的な方法は下記のとおりです。
- 5年超の長期所有による軽減税率を活用する
- ローン返済額を譲渡所得から差し引いて税負担を軽減する
- 小規模宅地等の特例を活用して非課税枠を拡大する
- 住宅用財産の3,000万円特別控除を活用する
- 仲介手数料や登記費用などを経費に計上する
- 譲渡所得の赤字を他の所得と損益通算して税負担を軽減する
不動産売却で非課税となるケースはある?
不動産を売却する際、特定の条件を満たすことで売却益が非課税になります。売却益が非課税になるケースは、下記のとおりです。
- 長期所有の住宅の売却
- 住み替えに伴う特例の活用
- 震災等で被害を受けた不動産の売却
- 小規模宅地の特例の活用
- 農地の特定条件下での売却
税負担を軽減するためにも、非課税になる特例やケースを確認しておきましょう。
売却損が出た場合の税金は?
売却損が出ると譲渡所得はマイナスとなり、税金は発生しません。売却損を他の譲渡所得と損益通算すれば、税負担を軽減できます。売却損は最大3年間の繰り越しが可能で、翌年以降の譲渡所得との損益通算により、税負担を軽減できます。損益通算をするには、確定申告が必要です。
まとめ
不動産の売却には、税金に関する幅広い知識が必要です。不動産の売却の際は、売却手続きにかかる税金と売却の利益にかかる税金が発生します。発生する税金を把握し、譲渡所得税の計算方法を把握しておけば、不動産取引をスムーズに進められます。
特例や軽減税率を利用できれば、大幅に税負担を軽減できるので積極的に利用しましょう。不動産の売却には税金以外にも、仲介手数料や登記費用などの費用もかかります。納税スケジュールを把握し、不動産取引をスムーズに進め、適切に税金を納めましょう。
» 不動産売却成功への近道!